Published: May 22, 2026 by mewlist
MML 連載シリーズ の 4 回目です。本シリーズで扱う MML 記法は MewMMLPad(VST3 / スタンドアローン / ブラウザ版) のものです。記事内の例はすべて MewMMLPad の Web プレイヤー上で動かしながら確認できます(PMD / FMP など他環境の MML とは方言が異なる箇所があります)。
今回は 曲全体に効くパラメータ をまとめて扱います。T(テンポ)、{+f} {-eab} {=*}(調号)、K(キーシフト)の 3 つです。1 音 1 音の記法ではなく、フレーズや曲全体に影響する設定群を整理します。
T でテンポを決める
T<数字> で BPM(拍/分) を指定します。既定は 120。
A T80 o4 L4 Q4
A c d e f g a b > c
ゆったりした T80 の C メジャースケール。
A T180 o4 L4 Q4
A c d e f g a b > c
同じ MML を T180 で速くするとまったく違う印象に。同じ音符でもテンポ次第で雰囲気が変わるのがよく分かります。
T は 曲全体に効くグローバル設定 です。複数チャンネルで演奏する場合も、A チャンネルの先頭にまとめて書く慣習にしておくと管理が楽です。
テンポを途中で変える
T は曲中でいつでも書き換えできます。区間ごとに速度を変えたり、ritardando(だんだん遅く)の段階的近似を作ったりできます。
A o4 L4 Q4
A T160 c d e f T120 g a b > c T80 < g a b > c2
3 拍ぶんずつテンポを下げて、最後の小節は半分の速度まで落とす書き方。本格的に滑らかなテンポ変化を作るなら、もっと細かく T を刻みます。
調号 {+f} {-eab} {=*}
楽譜の「シャープ・フラットが何個」に相当する設定です。波括弧の中に、変化させる音名を並べます。
| 記法 | 効果 |
|---|---|
{+f} |
以降の f を シャープ として扱う |
{+fc} |
f と c をシャープに(D メジャー / B マイナーの調号) |
{-b} |
以降の b を フラット に |
{-eab} |
e a b をフラットに(E♭ メジャー / C マイナーの調号) |
{=f} |
f の調号指定を解除 |
{=*} |
すべての調号を解除 |
D メジャースケール(D E F# G A B C# D)を 個別の + で書くと:
A T120 o4 L8 Q4
A d e f+ g a b > c+ d
これを 調号 で書くと:
A T120 o4 L8 Q4 {+fc}
A d e f g a b > c d
どちらも同じ音が鳴りますが、調号版は 毎回 + を書く必要がなく、フレーズが格段に読みやすくなります。曲全体で同じ調が続くなら、調号で済ませるのが基本です。
調号は途中で切り替えられます。
A T120 o4 L4 Q4 {+fc}
A d e f g a b > c d {=*} < d e f g a b > c d
前半は D メジャー、{=*} で調号を全解除すると後半は通常の音名に戻り、f と c がナチュラルになります。
臨時記号との優先関係
調号で {+f} を指定していても、個別音に f=(ナチュラル)や f-(フラット)を書けば、その音だけ 調号を上書き します。
A T120 o4 L4 Q4 {+f}
A f g a f= g a f g a
- 1〜3 音目:
{+f}の調号が効き、fは F# - 4〜6 音目:
f=は明示的にナチュラルなので F、続くg aはそもそも調号と無関係 - 7〜9 音目:再び
f(調号は引き続き有効なので F#)
ルールはシンプルで、個別臨時記号が常に勝つ、調号は書かれていない音名の既定値を決める、と覚えておけば OK です。
K キーシフト
K<数字> は すべての音を半音単位でシフト します。曲全体を別キーで演奏したいときに使います。
A T120 o4 L4 Q4 K0
A c d e f g a b > c
K0(既定)では C メジャースケールがそのまま。
A T120 o4 L4 Q4 K3
A c d e f g a b > c
K3 で 半音 3 つ上(短 3 度上)。同じ MML が E♭ メジャースケールとして聞こえます。K-2 のように負値で下方向にもシフトできます(範囲は -127〜+127)。
段階的に上げる
K2、K4、K6 と 書く値を順に増やせば、フレーズごとにキーを上げていけます。
A T120 o4 L4 Q4
A c d e f g K2 c d e f g K4 c d e f g
3 つの 5 音音型が半音 2 つずつ上がって聞こえます。
相対指定 K) K(
絶対値を毎回計算するのが面倒な場合は、K) K( で 現在のシフトに対する相対変化 を書けます。
| 記法 | 効果 |
|---|---|
K) |
+1 半音 |
K( |
-1 半音 |
K)2 |
相対 +2 半音 |
K(3 |
相対 -3 半音 |
A T120 o4 L4 Q4
A c d e f g K)2 c d e f g K)2 c d e f g
K)2 は「今のシフトに +2 する」なので、3 つのフレーズはそれぞれ K0、+2、+4 半音と段階的に上がります。上と同じ結果ですが、転調の単位を毎回そのまま書ける のが利点です。
調号と K の違い
- 調号
{+f}:特定の音名だけシャープ/フラットにする(スケール内の音を変える) K:すべての音を一様にシフトする(曲全体を移調する)
両方を組み合わせれば、「F メジャー譜面({-b})のまま、ボーカルキーに合わせて 2 半音上げる(K2)」のような調整ができます。譜面を書き直さずにキーだけ動かせるのが K の使いどころです。
組み合わせて短い演奏にしてみる
F メジャーで 2 小節を組んでみます。
A T100 o5 L8 Q4 {-b}
A f g a b > c < b a g f e d c d e f g
B o3 L4 V70 {-b}
B f2 c2 b2 f2
{-b} で B フラット 1 つ(F メジャーの調号)。T100 のゆったりしたテンポ。A チャンネルは旋律、B チャンネルは半音符の根音で I → V → IV → I の進行を支えます。
次に、MML はそのままで K2 だけ追加 して、G メジャーで聞いてみます。
A T100 o5 L8 Q4 {-b} K2
A f g a b > c < b a g f e d c d e f g
B o3 L4 V70 {-b} K2
B f2 c2 b2 f2
書いた音符は同じですが、全体が半音 2 つぶん上にシフトして G メジャー相当に聞こえます。K は 譜面の構造を保ったままキーだけ動かす のに便利です。
次回
次の #5「ピッチベンドとグリッサンド」 では、_(ピッチベンド)と ~(グリッサンド)、$BendRange などで 音程を滑らかに動かす 話を扱います。
連載全体の目次は シリーズ一覧 からどうぞ。